






第38回 お節(せち)料理の栄光と現実
いつの間にか、お節料理は家で作るものではなく、デパートやスーパーで買うものになってしまった。コンビニエンスストアでも、お節を置いてあるのに驚いたのは、数年前のことだ。
そんなことで驚いているのは古い。最近はネットによる通信販売が盛んらしい。
冷凍のお節もあるそうだ。12月の30日か31日に届いて、そのまま冷蔵庫に入れて18時間程度で低温解凍する。急ぐ場合は室内に常温で5~7時間置いておくと、31日に到着しても元日には解凍された状態で食べられる。冷凍技術も進み、最も進んでいるのは振動を与えながら冷凍するのだという。
お節は、お正月の主婦の仕事を軽減させる役割がある。また日常の煮炊き(労働)を慎んで、静かに正月を過ごす意味もある。だから、料理を日持ちをさせるために、甘味や塩味を強くしなくてはいけないが、冷凍の場合は、そんなに強くしなくてもいい。
最近の若い人は、あのお節の甘ったるさに弱いそうだ。結構、お節が苦手という人が増えてきている。昔だったら考えられないくらい、最近の世の中は食べることに関して、贅沢になったものだ。
ネット上のカタログを見ていたら、「生おせち」という言葉もあった。「冷凍」に対する言葉なのだろうが、ちょっと気品に欠ける。また、それぞれの品物が真空パックに入っていて、袋から出して自分で箱に詰めるセットもあるようだ。
自分で「盛り付け」を楽しめるところをセールスポイントにしている。料理はそれぞれ「パーツ」と呼ぶらしい。まあ、「パーツ」には違いないが、食べ物だけに、「パーツ」はそぐわない、と思うけれども。
「お肉が主役、ハム屋のお節」というのは、子供にターゲットを絞ったのだろう。「ワインに合うお節」と謳っている品もあれば、「ビストロお節」なんて、なんだかよく意味のわからないものもあった。
もちろん、中国料理のお節も用意されている。鮑や伊勢海老、鱶の鰭(ふかのひれ)といった、高価な食材が並んでいる。
テレビ番組の「料理の鉄人」として有名になったシェフが監修の任に当たっているというのもあれば、予約がなかなか取れないことで知られるイタリア料理店のイケメンを売りにしているシェフが顔写真を出して推薦しているものもあった。
北海道産の食材に特化したものや、山口県のフグ料理もある。まさに百花繚乱の賑いだ。
築地の事情に詳しい、畏友の福地享子さんに聞いた話では、お節業界の営業というか準備は、年が明けた2月から始まっているそうだ。
春にはメニューの大筋の内容を決め、大きさのそろった伊勢海老とか、西京焼きの鰆(さわら)や銀ダラ、昆布巻きの材料をその頃から発注しなくてはならない。
価格が決まり、宣伝用の写真撮影は真夏の暑い最中に行われる。
メーカーによっては、一年中お節しか作っていない専門店もあるそうだ。お正月のお節だけで年間の売上げをまかなうというのだから、規模もさることながら、多くのノウハウがあるに違いない。
料亭の片手間の仕事、などと考えていたら大間違いだ。元々は、料亭がなじみのお客さん用に年の瀬の挨拶の品だった。いつの間にか、表にしゃしゃり出てきた格好だ。
東京新橋の超高級料理店「京味」のお節について、「dancyu」誌の2012年1月号で、野地秩嘉氏が、主人の西健一郎さんの話を次のようにリポートしている。
年内の営業は24日で終わり、31日の朝までに、総勢30人ほどで、約200組500段のお節を用意する。お重に詰める作業が最も大変だという。
<見た目を美しく、料理が動かないよう隙間をなくす。隣り合わせの具材の相性も考えなくてはなりません。万が一、隣に味が移ってしまっても問題ないように、同系統の味の料理を並べたい。粕漬けの隣には味噌漬けを置きたいし、甘い物と辛い物を合わせたくない。>
30日は徹夜になるという。それまで朝の9時から夜の9時まで、作業場には暖房を入れない。食材が傷むのを恐れてのことだ。
お節にも、時代の流れが反映し、食べる側にも嗜好の変化がある。お節を食べながら、2012年が良い年になることを祈るばかりだ。
2011年12月27日火曜日
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