書評


日本の生活文化の柱を説く

陶智子(金沢学院大教授)


 読み終わって、題名はこれでいいのかと思った。一見凡庸な題名からは想像もつかない内容。確かにその通りだが、その通りではない。これは、いい意味での大きな裏切りである。

 生活に即した文化を総合する思想という観点でこれまで別々に語られた工芸や風俗や建築などが、茶の湯といけばなで貫かれる。その縦横無尽であることに驚かされる。著者の長年の茶道に関する研究によって分厚く裏付けられ、放送大学のテキストの原点に立ち戻り整理がなされている。独特の柔らかな語り口でらくらくと生活文化史の奥深くへといざなわれる。

 「生活に即した住宅建築、庭園、家具・調度・食器・服飾などの工芸品および装飾その他」は「いわゆる純粋芸術の枠には入らない。生活に使える美であり、生活の用に即した芸術である」という立地点と、「日本では生活と芸術が一体であり、また一体になろうとするところに日本の生活文化が成立する」という著者の考えは日本文化を再考する上で重要である。

 茶の湯から、そしていけばなから、あらゆる事柄が密接に関係していることが見えてくる。

 武家故実が食礼や贈答礼、行儀の礼などを内包しつつ成立し、その表現としての御成(主君が家臣の家を訪ねること)の儀礼が後に茶の湯へ影響を及ぼすくだりから、ぐいぐい引きずり込まれる。茶のまわし飲みや、にじり口に疑問を呈し、日本人の民族性を考え、洗練をキーワードに答えを出す。学生時代茶の師匠から、濃茶の一椀をわかつことでひとつになると教えられた。その意味が解き明かされた思いだ。

 栄西、佐々木道誉、村田珠光、千利休、後水尾院、小堀遠州、二代池坊専好、原三渓…。登場人物もきら星のごとく。

 著者の説く生活文化は日本文化の柱である。本書には、日本人が知らねばならぬことが書かれていることは間違いない。


共同通信配信書評2009年5月(中国新聞、京都新聞、秋田さきがけ、山形新聞、河北新報、福井新聞、熊本日日新聞、宮崎日日新聞、山陽新聞、山陰中央新報、沖縄タイムス、岐阜新聞など)